件のFTMの方から、stnの学習会で、ミッションを頼まれました。なので、仕事終了後、しこしこと文章を作成。しかし、方便とは言え…。まぁ転載します。あまりにも恥ずかしいので「注」をつけます。
2006年4月3日
株式会社 講談社
モーニング編集部御中セクシュアルマイノリティ教職員ネットワーク副代表
土肥いつきはじめまして。
現在「週間モーニング*1」に連載されている「GID」について、少々考えるところがありますので、手紙を書かせていただきました。
はじめに、わたしはMTF(男性から女性)の性同一性障害当事者である*2ことを明らかにしておきます。
作者の庄司陽子さんが「性同一性障害者への偏見を取り除きたい」という思いで、「GID」の連載をはじめられたことは、当事者*3としてたいへん評価するものです。しかし、読ませていただいているうちに、この作品は、偏見を取り除くというより、一歩間違えば、偏見を助長する危険性があるということを感じはじめました。その理由は大きくは次の2点です。・実際の当事者とはずいぶんと違う姿で書かれていること
私も含め、実際の当事者*4は、まわりの社会から押しつけられる性別と自分の本来の性別ありようの間で、さまざまな葛藤を感じながら生きています。しかし、紆余曲折を繰り返し、時として現実に頭を打ち*5、また妥協することを余儀なくされながらも、現実と折りあいをつけながら生活をしています。
しかしながら、「GID」の主人公の描き方は、そうした生き方とはまったく違い、私たち当事者*6から見ると「甘え」としかとらえられない刹那的な生き方として描かれています。このような描き方が流布をされると、「性同一性障害とは、結局はわがまま*7」というとらえ方を社会に広めてしまう危険性があります。
また、若年層の性同一性障害当事者、特にFTM当事者が、この主人公のような生き方が一般的であると誤解することも懸念します。実際に、学校をやめたり、家を飛び出したり、あるいは自分自身を見つめることなく性同一性障害を理由にさまざまな要求を社会にぶつける若年層当事者がいないわけではありません。しかし、こうした生き方は、結局は自らの首を絞めてしまうことにつながることがほとんどです。現在、直接私にアクセスしてくる若年層当事者にはそのような刹那的な生き方をしないように、ゆっくりと話を聞きながらアドバイスをしています。また、GID研究会(本年度よりGID学会)などでも、当事者にとってよりよい生き方を研究・模索しているところです。しかし、こうした地道な努力*8が水泡に帰す危険性があります。・FTM(女性から男性)の手術の方法や性別変更後の戸籍の記載についてなど、物語の構成上、必ずしも必要とは思えない内容が書かれていること
自分の下半身のことについて「暴かれる」ことを快く思う人いないと思います*9。とりわけ、性同一性障害の人間にとって、性器は最もこだわりを持つところであり*10、たいへんデリケートな内容です。このようなこだわりを持つ内容について無神経な書かれ方をすることは、当事者をたいへん傷つけることになります。また、陰茎形成術は術式によっては、外から見てそれとわかる傷跡を残します。従って、不用意に手術の方法について書かれることは、アウティング(他者のセクシュアリティを本人の同意を得ることなくばらすこと)につながります。
また、性別変更後の戸籍の記載についてさまざまなことを書かれることも、同様に*11アウティングにつながるものです。
こうしたアウティングは、平穏な生活を手に入れようとする性同一性障害当事者*12にとって、恐怖以外の何ものでもありません。『週間モーニング*13』は、発行部数もたいへん多く、社会への影響力も強く持っています*14。とりわけ、FTM当事者や、そのまわりの人たちに多数の読者がいます。それだけに、この作品の持つ悪影響を、たいへん懸念するところです。
以上のような意見が当事者から出ていること*15を念頭に置かれた上で、よりよい方向になるよう、今後の連載についてご検討いただきますようお願いします。また、御社サイトによると、現在「GID」の単行本化が予定されているとのことです。こちらについても、今までの内容がそのまま単行本化されるのではなく、当事者からの懸念があることを念頭に置かれた上で、善処されることをお願いします。
なお、私自身はセクシュアルマイノリティ教職員ネットワークの副代表をしておりますが、この文章は、個人として書いていることを申し添えておきます*16。何かあります場合は、下記住所、土肥いつきまでご連絡ください。
〒番号
住所
土肥いつき
しかし、閻魔様に舌を抜かれますな…。
でも、事は灸*17を要する状態だったので、ポストに入れてしまいました。あぁ…。